報告書に先立って、世の中は「のん」(能年玲奈)の移籍妨害がどうなるかとか、ジャニーズ事務所から独立した元SMAPの3人の活動阻止の動きがどうなるかに注目していたが、この報告書自体は、芸能界だけを対象にするものではなく、芸能界の具体的事例についてどうこうしろというものではない。
報告書は長文で難解だが、概要を見ると、芸能人の移籍に当てはまる可能性がある核心部分は以下だろう。
「複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者の移籍・転職を制限する内容を取り決めることは,独占禁止法上問題となる場合がある」
「 移籍・転職を制限する内容を取り決める行為が役務提供者の育成に要した費用を回収する目的で行われる場合であっても,通常,当該目的を達成するための適切な他の手段があることから,違法性が否定されることはない」
産経新聞の解説によると、芸能人やスポーツ選手らの移籍を不当に制限したりする事案が問題視されていて、現行法でも適用対象になり、公正取引委員会が認定すれば、排除措置命令の対象になる可能性があるそうだ(産経新聞の2016年2月16日付「フリー人材、独禁法で保護 公取委、不当な囲い込み防止」を参照)。
ところで、2月15日にNHKニュースが、「公正取引委員会の有識者会議は、芸能事務所が所属する芸能人との間で独立や移籍を制限する契約を結んでいるケースが相次いでいるとして、独占禁止法に抵触する不公正な実態がないか検討を進めています。こうした中、多くの事務所で使われている『統一契約書』を作る国内最大の業界団体『日本音楽事業者協会』が法律の専門家などによる研究会を立ち上げ、契約書のひな型の見直しを始めたことがわかりました」と伝えた(2018年2月17日付のYahoo!ニュースの高橋英樹氏の記事「<奴隷契約?>芸能人の独立・移籍の制限問題に公正取引委員会乗り出す」を参照)。
ここで登場する「日本音楽事業者協会」(音事協)には、バーニングを筆頭に、(のんがいた)レプロエンタテインメントや(安室奈美恵がいた)ライジングプロも含む多くの大手芸能事務所が正会員として加盟しており、主要テレビ局は賛助会員として加盟しているが、ジャニーズ事務所は加盟していない(バーニングが主導権を持っているからジャニーズは加盟しない、という説もあるようだ)。つまり、タレントとの契約で、ジャニーズ事務所が業界の統一基準に従うことはなさそうだ。
ちなみに音事協は2009年に、公共放送のNHKが(BSプレミアムで)ジャニーズの所属タレントしか出演しない「ザ少年倶楽部」「ザ少年倶楽部プレミアム」を放送していることを問題視していて、独占禁止法に抵触しかねないとの声も上がっていたが(こちらを参照)、本格的な番組中止要求には至らず、今もこれらの番組は放送されている。つまり、音事協が何しようが、我が道を行くジャニーズは圧倒的に強く、NHKをはじめとするテレビ局もジャニーズの言いなり状態が続いているようだ。
では、公正取引委員会がどういうケースで動いてくれるかというと、やはりそこは誰か被害に遭った人が密告したり訴えたり、世論が注目すると踏んだ人権派の専門家がアクションを起こしてくれたり、という過程を経るのだろう。公正取引委員会のサイトには、問題行動のあった有名企業が名指しされている。こういうところに名前が出るだけでも不名誉だから、一定の歯止め効果はあるかもしれない。

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